「大規模修繕って、結局何をやるの?」「改修って修繕と何が違うの?」——マンションにお住まいの方や管理組合の役員を担っている方から、こうした声をよく耳にします。
はじめまして。私は元・大手建設会社でマンション大規模修繕の現場監督として20年以上携わってきた、田中 建司と申します。退職後は管理組合向けコンサルタントとして独立し、これまでに300棟以上の修繕工事に関わってきました。
マンションの修繕に関わる言葉は似たものが多く、「修繕」「改修」「改良」「補修」などが混同されがちです。しかしこれらの違いを正しく理解していないと、必要な工事が見落とされたり、反対に過剰な費用をかけてしまったりと、後々大きな後悔につながります。
この記事では、「修繕」と「改修」の定義の違いからはじまり、それぞれどの工事内容に当てはまるのか、そしてマンションの状況に応じてどちらを選ぶべきかの判断基準まで、わかりやすく解説します。修繕積立金の使い方に悩んでいる管理組合の方にも、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
「修繕」「改修」「改良」——3つの用語の意味を整理しよう
大規模修繕に関して調べると、「修繕」「改修」「改良」という3つの言葉が頻繁に登場します。現場レベルでもしばしば混同されるこれらの用語ですが、国土交通省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では、それぞれ明確に定義されています。
修繕とは「元の水準に戻す」工事
修繕とは、経年劣化や外的原因によって建物の一部に不具合が生じた際に、修理や部品交換などを行い、建物が建設された当初の水準と同程度に回復させることを指します。
使用する材料は当初と同じもの、もしくはそれに近いものが原則です。つまり「修繕前の状態に戻す」ことが本質であり、機能を高めることは目的に含まれません。
代表的な修繕工事の例は次のとおりです。
- 外壁タイルの浮き・剥落箇所の補修
- シーリング(コーキング)の打ち替え
- 屋上・バルコニーの防水層の修復
- 鉄部(手すり・フェンス)の塗装
- 給排水管の漏水補修
改修とは「機能・性能を向上させる」工事
一方、改修とは単なる機能の維持や回復にとどまらず、建物全体の機能・性能をさらに高め、住みよいマンションにしていくことを目的とした工事です。
新築時から年月が経過すると、住まいを取り巻く社会環境や暮らし方も少しずつ変わっていきます。また設備や材料の進歩により建物性能も大きく向上しています。改修工事では、そうした変化に対応するために設備や性能をグレードアップし、現在の水準に見合うようマンションを進化させる工事を実施します。
代表的な改修工事の例は以下のとおりです。
- 高断熱サッシや省エネ性能の高い玄関扉への交換
- オートロックや防犯カメラの設置
- 共用部のバリアフリー化(スロープ・手すりの新設)
- 耐震補強工事
- 省エネ型照明(LED)への切り替え
- 宅配ロッカーや共用倉庫の新設
「改良」はどう違うの?
改良という言葉も建設現場では使われます。改良は改修と似ていますが、より部分的・局所的な性能アップを指す場合に使われることが多く、建物全体の性能向上よりも特定箇所の機能改善に焦点を当てた工事として区別されることがあります。ただし実務上は改修と改良を同義として使うケースも多いため、専門家との打ち合わせ時には「どの範囲を指しているのか」を確認するとよいでしょう。
以下の表で3つの違いを一目で整理できます。
| 用語 | 目的 | 工事後の状態 | 使用する材料 |
|---|---|---|---|
| 修繕 | 劣化・不具合の回復 | 新築時と同等の水準 | 当初と同じ or 近いもの |
| 改修 | 機能・性能の向上 | 新築時を上回る水準 | より高性能・高品質なもの |
| 改良 | 特定箇所の性能アップ | 当該箇所の機能が向上 | 性能が上のもの |
大規模修繕工事の正確な定義を知っておこう
「大規模修繕」という言葉は非常によく使われますが、実は「国土交通省による定義」と「建築基準法上の定義」では意味が異なります。この違いを知っておくと、専門家や業者との会話でも混乱しにくくなります。
国土交通省による定義
国土交通省のガイドラインでは、大規模修繕工事を「マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等」と定義しています。
この定義のポイントは、「修繕工事だけでなく改修工事も大規模修繕に含まれる」という点です。私たちが「大規模修繕」と呼んでいる工事には、純粋な原状回復だけでなく、性能向上のための改修工事も組み込まれています。
建築基準法による定義
一方、建築基準法では「大規模の修繕」を「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」と定義しています。主要構造部とは、柱・梁・壁・床・屋根など構造上重要な部分を指します。
注意が必要なのは、一般的なマンションの大規模修繕(外壁塗装や屋上防水など)の多くは、建築基準法でいう「大規模の修繕」には該当しないケースが多いという点です。なぜなら、柱や梁の過半を修繕するような工事はほとんど行わないからです。
「大規模修繕」という言葉を使う文脈によって意味が異なる場合があることを、頭に入れておきましょう。
大規模修繕工事で行われる主な工事内容
実際の大規模修繕工事では、「修繕」と「改修」が組み合わさった形で工事が進められます。それぞれどんな工事が含まれるのか、代表的なものを整理します。
修繕として行われる工事
大規模修繕の核となる修繕工事は、主に共用部分を対象としています。国土交通省の令和3年度実態調査によると、外壁塗装が工事費に占める割合として最も高く、次いで床防水となっています。
- 外壁補修・塗装工事:タイルの浮き、ひび割れ、剥落の補修、外壁塗装の塗り替え
- シーリング工事:窓やサッシまわりの目地コーキングの打ち替え
- 屋上・バルコニー防水工事:防水シートや防水塗料の更新
- 鉄部塗装工事:手すり、フェンス、外階段の錆落としと塗装
- 給排水管の更新:老朽化した配管の取り替えや更生工事
改修として行われる工事
修繕工事と同時に、居住性や安全性を高める改修工事が行われるケースも増えています。特に2回目・3回目の大規模修繕では、改修の比重が高まる傾向があります。
- 高断熱サッシへの交換:窓の断熱性能を上げ省エネ化を図る
- オートロック・防犯カメラの設置:セキュリティ強化
- バリアフリー工事:玄関や共用廊下・エントランスのスロープ化、手すりの新設
- 耐震補強工事:壁や柱に補強材を加え耐震性能を向上させる
- EV充電設備の設置:電気自動車対応スペースの整備
- 照明のLED化:共用部の電球・蛍光灯をLEDに切り替え
「修繕だけ」では不十分な理由
修繕は建物を「元に戻す」作業です。しかし、元に戻すだけでは時代に取り残されてしまう側面があることを、多くの管理組合は見落としがちです。
たとえば、同じ年数を経た2棟のマンションを比べてみましょう。片方は修繕工事のみを繰り返してきたマンション。もう片方は修繕と並行して改修も積極的に実施してきたマンション。新築時点では同等でも、10年・20年と経つにつれてグレードの差は大きく開いていきます。
改修を行わなかったマンションは、たとえ外壁が綺麗に保たれていても、防犯設備が旧式だったり、バリアフリーに対応していなかったりと、居住者にとっての暮らしやすさで大きく見劣りします。その結果として空室増加や資産価値の低下に直結するケースも少なくありません。
国土交通省も「修繕だけでなく、改修を組み込むことで居住環境を高め、マンションの長寿命化を図ることが重要」という考えをガイドラインで示しています。大規模修繕は「直す機会」であると同時に、「マンションをアップデートする絶好のタイミング」でもあるのです。
どちらの工事を優先すべき?判断のための基準
修繕と改修のどちらを実施すべきか、またその組み合わせをどう考えるべきかは、マンションの築年数や劣化状況、修繕積立金の残高によって異なります。
築年数ごとの工事内容の目安
国土交通省の令和3年度実態調査によると、大規模修繕の平均修繕周期は「13年」が最も多く、全体の約7割が12〜15年周期で実施されています。回を重ねるごとに工事範囲が広がる傾向があります。
| 大規模修繕の回数 | 実施の目安時期 | 工事の重点 |
|---|---|---|
| 1回目 | 築12〜15年 | 外壁・屋上防水・鉄部塗装など外部の修繕が中心。改修は限定的 |
| 2回目 | 築24〜30年 | 外壁修繕に加え、玄関扉・サッシ・エントランス改修なども対象に |
| 3回目 | 築36〜45年 | 設備の全面的な更新、耐震補強、バリアフリー化など改修の比重が増す |
改修工事を大規模修繕と同時に行うメリット
改修を修繕と同時に実施する最大のメリットは、コストの効率化です。
大規模修繕では建物の外周に足場を組む必要があり、この足場仮設費が工事費全体の2割強を占めます。改修工事が必要な場合でも、足場があるうちに同時に実施すれば、別途足場を組む費用が不要になります。結果として、個別に工事するよりも総コストを大幅に抑えられます。
このほかにも以下のメリットがあります。
- 居住者への工事騒音・振動の負担が1回で済む
- 業者との交渉窓口を一本化でき管理が楽になる
- 補助金制度を一括で活用しやすくなる
改修工事の実施を判断するポイント
改修工事を追加するかどうか迷う場合は、以下の観点から判断することをおすすめします。
- 居住者の高齢化が進んでいるか(バリアフリー化の必要性)
- 旧耐震基準(1981年以前)の建物かどうか(耐震補強の要否)
- 省エネ性能が現行基準から大幅に遅れていないか
- 防犯設備が現代水準に対応しているか
- 修繕積立金に余裕があるか
これらに複数該当する場合は、改修工事を組み込むことを積極的に検討する価値があります。
工事業者・コンサルタント選びの注意点
大規模修繕の成否を左右する大きな要因のひとつが、業者やコンサルタント選びです。特に注意したい点を整理します。
設計・監理と施工を同一の業者に任せる「設計施工一括方式」は費用を抑えられますが、工事内容の適正チェックが甘くなるリスクがあります。一方、設計・監理を独立したコンサルタントに依頼し、施工業者を競争入札で決める「設計監理方式」はコスト透明性が高く、多くの専門家が推奨しています。
また、建物の劣化状況を正確に把握するには、専門家による「建物診断(劣化診断)」の実施が欠かせません。国土交通省の「マンション長寿命化ガイドライン」でも5年ごとの建物診断が推奨されており、診断データをもとに工事内容と優先順位を決定することが大切です。
建物調査においては、現況の記録や管理台帳データの整備・電子化も重要な作業です。こうした調査・データ管理を専門に手がける企業を活用することで、修繕計画の精度が高まります。測量・調査・システム開発を専門とする株式会社T.D.Sの会社概要のように、各種管理台帳図の作成・調査・システム開発を一体的に提供できる企業の存在も、建物管理の効率化を考える際の参考になるでしょう。
補助金・助成金制度をうまく活用しよう
大規模修繕と同時に改修工事を行う場合、各種補助金・助成金を活用することで費用を抑えられます。2026年時点での主な制度を紹介します。
- 耐震補強工事:各自治体の耐震改修補助制度(補助率は費用の3分の1〜3分の2が目安)
- 省エネ・断熱改修:「住宅省エネ2026キャンペーン」関連事業(窓改修・給湯器交換など)
- バリアフリー改修:自治体の段差解消工事等費用助成制度(補助率・上限は各自治体で異なる)
- EV充電設備設置:経済産業省補助金(マンション1棟あたり上限あり)
補助金制度は年度ごとに内容が変わるため、工事計画を立てる段階で国土交通省や各自治体の最新情報を必ず確認することが重要です。詳しくは国土交通省「マンション建替え等・改修について」のページも参照してみてください。
大規模修繕の費用相場を知っておこう
修繕積立金が適切かどうかを確認するためにも、費用相場の目安を把握しておきましょう。
国土交通省の令和3年度実態調査によると、戸あたりの工事金額は「100〜125万円/戸」の割合が最も高く、マンション全体の総工事費は中央値で7,600〜8,700万円程度(共通仮設費除く)となっています。ただし2025〜2026年にかけての建設資材価格の上昇や人件費高騰により、実際の工事費はこれより高くなっているケースも増えています。
回数ごとの費用の傾向は以下のとおりです。
- 1回目(1戸あたり):100〜125万円が最多。外部工事中心のため比較的金額が絞りやすい
- 2回目(1戸あたり):75〜125万円の幅があり、設備工事が加わる分増加傾向
- 3回目以降:設備全面更新・耐震補強などが加わるため、さらに費用が膨らむケースも
修繕積立金の過不足を定期的に確認し、長期修繕計画を5年ごとに見直すことが、適切な資金計画の基本です。
まとめ
この記事で解説した内容を整理します。
- 「修繕」は劣化した箇所を新築時の水準に戻す工事、「改修」は建物の機能・性能を現代水準に高める工事
- 大規模修繕とは修繕工事と改修工事の両方を含む概念であり、国土交通省と建築基準法で定義が異なる
- 築年数が増すにつれて改修工事の比重が高まり、1回目は外部修繕中心、2〜3回目はバリアフリーや設備更新なども含まれる
- 修繕と改修を同時に実施することで、足場費用の節約や居住者負担の軽減につながる
- 補助金制度を活用し、長期修繕計画にもとづいた積み立てを行うことが重要
「修繕で十分」と思って改修を先送りにすると、マンションの魅力が時代に取り残されてしまいます。大規模修繕のタイミングは、住まいのクオリティを引き上げる絶好のチャンスです。管理組合の方はぜひ、次の修繕計画を立てる際に「改修も組み込む余地があるか」を改めて検討してみてください。
最終更新日 2026年3月9日 by female