「無農薬って、もう書いちゃいけないんですか」
麦の生産組合で表示の説明をしたとき、70代の農家さんにそう言われたことがあります。
何十年も除草剤をまかずに畑をやってきた人です。
書けないと言われて納得できないのは、当然だと思いました。
熊谷紗代といいます。
北関東の農協で営農指導員を10年やっていました。
水田の裏作の麦と大豆が担当で、種まきから刈り取りまで農家さんの畑をまわる仕事です。
売り場で見かける「栽培期間中農薬不使用」というシール。
あの回りくどい言い方にも、一応ちゃんとした理由があります。
「無農薬」は、書かないことになっています
農林水産省の特別栽培農産物に係る表示ガイドラインに、表示禁止事項という項目があります。
そこに「無農薬栽培農産物」「無化学肥料栽培農産物」「減農薬栽培農産物」「減化学肥料栽培農産物」等の表示、と並んでいます。
最後に改正されたのは平成19年3月です。
ただし、これは法律ではありません。
局長通知なので、破っても罰則はない。
それでも産地がおおむね従っているのは、理由のほうに納得しているからだと思います。
その理由は、ガイドラインのQ&Aに書かれています。
生産者が「無農薬」と言うとき、それは「自分の畑で農薬を使わずに育てた」という意味でした。
けれど消費者が受け取るイメージは「土に残った農薬も、隣の畑から飛んできた農薬も含めて、残留農薬が一切ない」ものだった。
同じ3文字で、送り手と受け手が別のことを考えていたわけです。
代わりに使う言葉は、2段階あります
では何と書くのか。
ガイドラインは書き方まで指定しています。
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| 農薬:栽培期間中不使用 | 栽培期間中、農薬を一切使っていない |
| 節減対象農薬:栽培期間中不使用 | 節減対象農薬は使っていないが、それ以外の農薬は使った |
| 化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用 | 窒素成分を含む化学肥料を使っていない |
引っかかりやすいのは真ん中です。
節減対象農薬というのは、化学合成農薬のうち、有機栽培で使うことが認められている農薬を除いたものを指します。
だから「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と書いてあっても、農薬をまったく使っていないとは限りません。
上の段と真ん中の段は、字面がよく似ています。
中身はけっこう違います。
青汁のような粉ものは、このルールの外にあります
ここは私も指導員時代に整理しきれていませんでした。
ガイドラインが適用されるのは、野菜と果実(加工したものを除く)、それに乾燥調製した穀類や豆類、お茶などです。
Q&Aでは、粉挽きや搾汁は「加工」に当たるとされています。
葉を粉にした時点で、その商品は対象から外れるわけです。
では加工食品なら何と書いてもいいのかというと、そうではありません。
ガイドラインのQ&Aには、加工食品に「無農薬栽培トマト使用」と表示するのは適当でない、「栽培期間中農薬不使用のトマト使用」と記載するのが適当、と書かれています。
ルールの外にあるけれど、書き方の作法はそろえましょう、ということです。
この線を守っている商品もあります。
たとえば日本薬健の金の青汁は、商品説明で「契約農家の手で農薬を一切使わずに栽培された」と書いていて、「無農薬」という語は使っていません。
原料の育て方をどう説明しているかを見比べる材料として、九州産の大麦若葉だけを使った青汁の商品ページは分かりやすいと思います。
「有機」だけは、まったく別の話です
有機とオーガニックは、制度の性格そのものが違います。
農林水産省の有機食品の検査認証制度によれば、有機JASマークのない農産物や加工食品に「有機」「オーガニック」といった名称を表示することは、法律で禁止されています。
こちらはお願いではなく、禁止です。
もっとも、この区別はあまり知られていません。
農林水産省が令和8年3月に公表した意識・意向調査では、「有機」「オーガニック」の栽培方法と表示のルールを示したうえで、その内容を正確に知っていたと答えた消費者は8.6%でした。
回答したのは3,000人です。
12人に1人ほど、ということになります。
まとめ
- 「無農薬」はガイドライン上、表示しないことになっている(法律ではないが、産地はおおむね従っている)
- 「農薬:栽培期間中不使用」と「節減対象農薬:栽培期間中不使用」は別物
- 粉末や飲料などの加工食品はガイドラインの対象外だが、農林水産省は同じ書き方をすすめている
- 「有機」は法律で守られた表示で、有機JASマークが要る
売り場で迷ったら、まず有機JASマークがあるかどうかを見る。
なければ、農薬について何と書いてあるかを読む。
その順番でいいと思います。
言葉が強いほど中身も強いわけではない。
畑をまわっていた10年で、いちばん覚えたのはそこでした。
最終更新日 2026年9月4日 by female









